2009年5月24日日曜日

〔復刻版〕童話の教訓④ バブルとおじいさん


おてんとうさまから名前をもらった小さな村に、ヒツジ飼いのおじいさんがいました。

おじいさんは、自分が飼っていた27匹のヒツジたちを集めて、ホラを吹くことが大好きでした。いつもいつも得意げな顔で、おじいさんはツバを飛ばしながら、おおきな声でしゃべります。

「たいへんだ! もうすぐバブルがくるぞ! 買ったカブが何十倍にも値上がりするぞ! 土地が高く売れるぞ!」

村人たちは、だれもおどろきませんでした。おじいさんのお話が、ウソだと知っていたからです。

それでもヒツジたちは、おじいさんのお話をきいて、おおよろこびしました。もうかれば、わけまえをくれて、おいしいものをたくさん食べさせてくれると信じたからです。

ヒツジたちは、おじいさんがカブや土地を買うお金のために、自分のからだをつつんでいた毛をすすんで、さしだしました。おじいさんは、ヒツジたちがみついでくれた羊毛(ようもう)を高く売って、みるみるうちにお金持ちになりました。

おじいさんは調子に乗って、ホラを吹く声がますます大きくなっていきます。

「もうすぐバブルがくるぞ! 買ったカブが何十倍にも値上がりするぞ! 土地が高く売れるぞ!」

村人たちはもちろん、だれもおどろきません。「またホラを吹いている」といって、おじいさんをつめたい目で見るだけでした。

しかし、ヒツジたちは目をキラキラとかがやかせて、おじいさんのお話にききいります。そして、おじいさんのお話にひかれたヒツジが、よそから集まってきて、あっというまに1000匹ほどになりました。村で一番のヒツジ飼いになったおじいさんは大きなお城に住み、おいしいものをたくさん食べ、高いお酒を飲んで、ぜいたくな暮らしをしました。

からだの毛をさしだし、裸になったヒツジは寒さにこごえながら、それでもおじいさんのお話をうれしそうにききました。

「もうすぐバブルがくるぞ! 買ったカブが何十倍にも値上がりするぞ! 土地が高く売れるぞ!」

いつも、おなじお話ばかりでしたが、ヒツジたちはおじいさんのお話をきくと、寒さをわすれて元気になれました。もうすぐ、あたたかくて、おしいものをたくさん食べることができると思ったからです。

おじいさんのお話は、何十回、何百回とくりかえされました。ヒツジたちは寒さと飢えで、やせおとろえていきます。一度か二度は、おいしいものを食べさせてもらったことがあるからです。いまがまんして、おじいさんについていけば、もっとおいしいものが食べられるんだ。そんなふうにヒツジたちは信じて、夢を見つづけていたのです。

ほとんどの村人は、知らない顔をしていました。でも、なかには、ヒツジたちがやせおとろえていくのを見かねて、忠告をしてあげる村人もいました。

「きみたちは、おじいさんにだまされているんだよ。飢え死にしないうちに、はやく逃げたほうがいいよ」

でも、ヒツジは村人のコトバに耳を貸そうとはしませんでした。きかないどころか、おじいさんに告げ口をするヒツジもいました。

「村の人が、おじいさんの悪口を言っていましたよ」

おじいさんは、ものすごいいきおいで怒りました。

「村のやつらは、みんなウソツキだ! とんでもない悪党(あくとう)なんだ。あいつらは犯罪容疑者(はんざいようぎしゃ)なんだ! そんなやつらのウソに、だまされるな。カブが値上がりして、土地が高く売れて、きみたちがもうけることがおもしろくないから、ウソをついているにきまっている」

ほとんどのヒツジは、おじいさんの言うことを信じて、村人を憎みました。でも、すこしでしたが、おしいさんのほうがウソをついているのかもしれないと、うたがいはじめたヒツジもいました。

あわてたおじいさんはヒツジたちにはナイショで、こわいオオカミにお金をわたし、本当のことを言った村人をおどさせて、だまらせたのです。ペンを使ってヒツジたちに警告(けいこく)しようとした村人を、おじいさんはブラックジャーナリストと呼び、おじいさんが飼っていたキツネが高いお金をもらって裁判所(さいばんしょ)に訴えました。

おじいさんは、ヒツジたちを集めて、おおきな声で叫びました。

「ほら、みてみろ。悪いやつだから、裁判所に訴えたんだ。もうすぐ、あいつはウソをついた罪をさばかれることになる」

ヒツジたちは、おじいさんの言うことを信じて、ブラックジャーナリストを村一番の悪人だと信じこんだのです。

おじいさんのもとへ、ヒツジたちが集まってから、いつしか10年もの月日が流れていました。いつまで待っても、おじいさんはカブや土地を売りません。自分だけがおいしいものを食べて、ぜいたくな暮らしをしているのに、裸にされたヒツジは寒さと、ひもじさにたえるしかありませんでした。それでも、おじいさんのお話は、いつもと変わりません。

「もうすぐバブルがくるぞ! 買ったカブが何十倍にも値上がりするぞ! 土地が高く売れるぞ!」

しかし、やって来たのはバブルではなく、米の国からひろがった飢饉(ききん)でした。牧草は枯れ、ヒツジは食べるものもなくなり、寒さと飢えに苦しみました。おじいさんが、預かってくれていたカブや土地は、どうなったのでしょうか。

牧場と未開拓地(フロンティア)との境に、おじいさんが持っていた1号(ワン)倉庫の中には、二束三文で買った見せかけのカブの山がありました。でもカブは、とっくにぜんぶ腐っていたのです。そのカブを売った、かの国の商人も、買いもどしてはくれません。

おじいさんが、どこかの国の大統領(だいとうりょう)や大金持ちが高く買ってくれると言っていた土地も、小さな一軒の家が建っているだけで、ぺんぺん草も生えないような荒地でした。

だまされたことに気がつき、怒りだしたヒツジもいました。しかし、おじいさんは、すでに村からいなくなっていました。あたたかい南の島のビーチで、おいしいものをたらふく食べ、高いお酒を浴びるように飲み、みにくくせり出したおなかをさすりながら、のんびりと暮らしていたのです。

そして、村にとり残されたヒツジたちは寒さと飢えにたえきれなくなり、おじいさんからあたえられた夢を見ながら1匹、2匹と倒れていったのでした。

おしまい


このお話は、だれでも知っているイソップ物語の「オオカミと少年」を下敷きにしています。

オリジナルのお話は、音声でお聴きください。

亜姫の朗読☆イソップ童話「オオカミが来た!!(オオカミと少年)」
http://www.voiceblog.jp/onokuboaki/595829.html


原話は、「ウソツキはたとえ本当のことをいっても、だれも信じてくれない」ことを教えています。しかし、「あばたもえくぼ」の状態になってしまうと、ウソも「目からウロコ」と思えて、他人の忠告に耳も傾けなくなってしまう、というのが今回のお話の教訓です。